眺めの良い部屋
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マウイ島で子育てしながら感じることを気ままに書いています。

by aroomwithaview
ゆめ
あの夜
軋む音が鳴りやまないチープなホテルの9階から
ひとりマンハッタンの街を眺めていた

鳴りやまないパトカーのサイレン
流れるタクシーとヘッドライト
千鳥足の男たちの不恰好なステップ
不可解な言葉と不健康な色彩が交差する

初めてのニューヨークは恋の終わりと重なり
手荷物は全て盗まれ空っぽなのに
心の荷物は重く肩から食い込んでいた

エアコンは嵐が丘のヒースのように孤独と裏切りの音を立て
ラジオから流れる遠い異国のサウンズが奇妙に共鳴し
不可解な歌詞であるほどに日本人であることを思い出していた

失ってはじめてわかること
失ったときにはわからない自分の命
“命は奪われなくて運が良かった”
ポリスマンの言葉がエコーする

命あるからこそ苦しい
すべてを失っても
あなただけは失いたくなかった

眠らないマンハッタンを眺めながら 
うつらうつらしていると電話がなった

“もしもし”

電話の向こうから聞こえる日本語にホッとした
それまでの過ちを許すかのように
その声は優しかった

エアコンの騒音と遠い国の言葉とサイレンが邪魔をする
その声が上手く聞きとれない

“もしもし”
“もしもし”

そう何度か繰り返すと
場所はマンハッタンのホテルの一室からバレエスタジオにかわっていた

トウシューズのピンクのサテンの紐を結ぶ手をとめて
受話器をにぎりしめた

交わされる会話はなかった
ただ繋がっているそれだけで
世界が色を変えた

そこで目が覚めた

にぎりしめた手のひらは ほのかにあたたかく
優しい音色に包まれていた


by aroomwithaview | 2009-07-07 00:00 | ひとりごと